Legend Xを聴き始めたとき、まずその圧倒的な低音に引き込まれました。量感は十分でありながら過剰ではなく、力強さと弾力性を兼ね備え、速度感や解像度も見事に表現されています。エレクトロニカを主に聴き、バランスドアーマチュア型のイヤホンの低音に満足できなかった私にとって、このイヤホンは失われた感動を取り戻してくれるものでした。以前、同じような満足感を与えてくれたのはie800が初めて登場したときでしたが、残念ながらie800は他の面で私の要求を満たしていませんでした。エレクトロニカもただのビートだけではなく、幅広いジャンルが含まれていることを考えると、全帯域で高密度かつ低音の制御が効いたダイナミックドライバーのイヤホンを実現するのは容易ではありません。ダイナミックとバランスドアーマチュアのハイブリッド構成が持つ本来の強みである密度とダイナミズムのバランスが、Legend Xでは見事に達成されています。
初めてのインパクトを過ぎてから、様々なジャンルを試してみたところ、Legend Xをエレクトロニカ専用に限定するのはもったいないと感じました。ポップス、ロック、クラシック、映画音楽なども難なくこなせる非常にオールラウンドなイヤホンです。ただ「何でも聴ける」とは違い、音色の個性やバランス感覚が卓越しています。Legend Xの調整の特徴を挙げるとするなら、「ナチュラル」で、さらに「安定感」があると感じます。具体的には、音に安心感があり、騒がしさや混乱がありません。これは優れたイヤホンに共通する重要な要素であると私は考えます。この安定感も、単に輝度を抑えてディテールを犠牲にすることで得られたものではなく、総合的な制御力と表現力によるものです。背景が暗く、ディテールが浮かび上がるような感覚で、まさに「浮かび上がる」という表現が適切です。音源が持つ背景情報がしっかりと活かされ、深みのある背景に鮮明な音が立ち上がる感覚が得られます。
Legend Xの最大の魅力は、その「再現力の高さ」にあります。これは単にボーカルや楽器のリアルさという意味ではなく、音楽全体の再現力のことです。複数のドライバーが細かいディテールを再現することは得意ですが、音が固まりがちなイヤホンも多いです。例えばクラシックは得意でもボーカルは苦手、あるいはその逆、といった具合です。Legend Xは、音場が小さくも大きくもなり、近くも遠くも表現でき、密度もあるため、ポップスではボーカルや楽器の質感が際立ち、オーケストラや劇場音楽では空間感や層の分離が明瞭で、遠方のディテールもぼやけません。簡単に言えば、録音された音楽そのものを忠実に再現するイヤホンです。
もちろん、Legend Xが完璧かと言われれば、そうではありません。個人的に感じるのは、やや情感の表現力に欠ける部分があるということです。これはボーカルが無機質というわけではなく、Legend Xはあえてボーカルを強調していないので、歌手の実力と録音の質が良ければ十分に楽しめます。ただ、エモーショナルさやボーカルの「潤い」がやや不足している印象もあります。また、クラシックやピュアなインストゥルメンタル曲で感じられる、音楽の深層的な感動を引き出す力がやや不足しており、純粋な楽器の色彩感や華やかさ、そして残響がやや控えめです。これらの点では、ダイナミックドライバーのほうが得意です。おそらくLegend Xは技術的な完成度を追求するあまり、やや硬質な音作りとなっているのかもしれません。