近年、若い世代を中心に人気となっているアニソン。アニメ作品の主題歌や劇中曲だけでなく、アニメから生まれたユニットがアーティストのように楽曲をリリースすることも。そんなアニソンをより高音質で楽しむためのイヤホン・ヘッドホンを、アニソン好きのオーディオライター天野 透さんと橋爪 徹さんの2人がセレクトしました。お二人の試聴時の定番曲も紹介していますので、ぜひイヤホン・ヘッドホン選びの参考にしてみて下さい。
今回はイヤホン編として、千円台のエントリーモデルから10万円近いハイエンドモデルまで、幅広い価格帯のなかから選ばれた有線タイプ7モデルを紹介します。
試聴に用いた楽曲はこちら
【天野 透さんの選曲】
●「Snow halation」/μ’s
仕事柄、レビューは全く面識のない人に読んでもらうことが前提なので、リファレンスは意識的にできるだけ多くの人が聴いたことのある楽曲を1曲選んで入れている。その点、スノハレはアニソンにおけるハイレゾ音源の売り上げがぶっちぎりで多いので、レビューをイメージしてもらいやすい。言わば、ハイレゾアニソン界の「ホテル・カリフォルニア」。メンバー9人が同時に歌うため、音の描き分け、分離の良さと言った要素を聴き比べられる。
●「ラムのラブソング(「うる星やつら」より)」/ラスマス・フェイバー
アニソンに小洒落たジャズアレンジの魔法をかけたラスマス・フェイバー「プラチナ・ジャズ」は、音も音楽も総じて良い。歌詞はフランス語訳されていて、尾母音などの息遣いの艶めかしさが聴き所(シャンソン歌手のクレモンティーヌも同じ歌詞でこの曲を歌っている)。
●「Shiny Seven Stars!」/エーデルローズ新入生
(『KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-』OP主題歌)
深い物語と流麗なCGライブシーン、そして度肝を抜く演出で話題のタイトル「King of Prism -Shiny Seven Stars-(通称:スッスッス)」のオープニングテーマ曲。安定した打ち込みビートと、声質が全員わりと大きく違う7人の男性ヴォーカルの、描き分けとまとめ上げといった要素に耳を傾ける。ビートが止んでチャイムが鳴るBメロ冒頭でどれだけ演奏の色が変わるかも、表現の引き出しを見極めるポイント。
【橋爪 徹さんの選曲】
●「ぼなぺてぃーと▽S」/ブレンド・A
(『ブレンド・S』OP主題歌)
●「Magic Parade」/大原ゆい子
(『リトルウィッチアカデミア 魔法仕掛けのパレード』劇場版主題歌)
●「A Page of My Story」/アンジェ(今村彩夏)、プリンセス(関根明良)、ドロシー(大地 葉)、ベアトリス(影山 灯)、ちせ(古木のぞみ)
(『プリンセス・プリンシパル』ED主題歌)
全米で最も売れたハイコスパイヤホン
スカルキャンディ
Ink’d+ Earbuds with Microphone
全米でナンバー1の売上(25ドル未満イヤホン、2013年1 月~2015 年12 月)を誇ったINK’Dシリーズの最新モデル。代名詞である低域をさらに豊かにし、クリアで滑らかな高域を実現しています。ハンズフリー通話が行えるマイク付リモコンを搭載。
【アニソン試聴レビュー】
低音ガッツリ、高音キンキン、いわゆるドンシャリ系の音。空間表現は若干圧縮された窮屈な印象。「ラムのラブソング」でボサノヴァを歌わせてみると思ったよりも穏やかな雰囲気で、自慢の低音が「ここぞ!」とばかりに踊った。「Shiny Seven Stars!」では低音の元気さが更に際立つ。音は粗いがヴォーカルが近く、バックオケとヴォーカルの対比がなかなか出ていた。(天野)
L/Rの表示が一切見当たらなかったが、リモコンがある方がL側とのこと。慣れれば問題ないだろう。全体的に価格相当のサウンドという印象だが、解像度や分解能力のクオリティは惜しいと思った。エントリークラスにありがちな、耳に付く高域のピークが存在しないのは好印象。中域が豊かで「Magic Parade」のストリングスは壮大さを味わえた。ただ、テンポの速い楽曲では、ユニットが追従できておらずリズムにノリきれなかった。(橋爪)
3千円を切るハイレゾ対応の国産イヤホン
SATOLEX(サトレックス)
Tubomi DH298 A1Bu
前モデル「DH298-A1Bk」と比較して、低音を抑え高音域に繊細さを加えたチューニングを採用。 40Hz~50Hz付近の低音を抑え、繊細な音を楽しめるサウンドに仕上がっています。ハイレゾ音源の再生にも対応。
【アニソン試聴レビュー】
パッと聴いた感じはどこが飛び出るでもなく引っ込むでもなくきわめてナチュラル。ただしずっと聴いているとややノッペリさを感じ、「ラムのラブソング」ではウィンドアンサンブルに活力が足りずヴォーカルも艶が不足している印象。「Shiny Seven Stars!」ではバックオケとヴォーカルが対等に鳴っており、歌のインパクトが薄い。まるで味が無い蒸留水を飲んでいるような印象で「ミネラルウォーターが飲みたいなぁ」と感じた(天野)
一聴して、やや明るめの高域に気がつくが、価格以上の解像感を備えており、帯域バランスの癖も少ない。BPM早めの「ぼなぺてぃーと▽S」は、中低域のもたつきが少なく、シンセサウンドの精細な響きも明るめの音調が寄与して聴き心地がいい。反面、音の広がりや分離の表現は少し物足りない。「Magic Parade」は、ストリングスとバンドセクションがゴチャゴチャした感じで入り乱れてしまった。巧みに定位の違いを活かしたミックスの「A Page of My Story」では、コーラスとメインボーカルの描き分けが惜しいところ。この価格帯で国産の安心感は大きい。(橋爪)
金管楽器のような形状のスタイリッシュなイヤホン
NUARL(ヌアール)
NX30A
強力な磁気を有したネオジム磁石とチタン合金蒸着振動板を組み合わせた独自開発の「NUARLドライバー」を搭載。ハウジングには金管楽器に使用される銅比率に近い「黄銅」を使った真鍮素材を採用しています。米T.B.Iの音響特許技術「HDSS」により、カナル型イヤホンにありがちな頭内定位を防ぎ、クリアで立体感のある自然な音の広がりを再現します。
【アニソン試聴レビュー】
結構上まで高音を伸ばしていて音が硬く、打ち込み音源がハキハキしていた。しかし立体感は乏しく音場の広さをあまり感じない。“二次元的” な音楽だが、キレッキレな音が好きな人には支持されそう。「スノハレ」は繊細なギターが印象的な細身の音で、ある意味でいまの流行の音と言えるかも。アコースティックな音源との相性はあまりよくなく、「ラムのラブソング」では硬質なフルートの鋭さが際立っていた。(天野)
管楽器をモチーフにしたというフォルムは、ひと目で気に入った。実売1万円を切るイヤホンながら、音のクオリティは全体的に高いレベルにまとまっている。耳の奥までしっかりと入るので、遮音性が高い。筐胴に黄銅を使っているのが影響しているのだろうか。解像度や分離感、定位の描き分けが価格以上の品質を感じさせる。「Magic Parade」のストリングスも繊細に聞かせるが、欲を言えば質感はもう少し有機的な成分が欲しかった、と思わず贅沢を言いたくなる仕上がりの良いイヤホン。(橋爪)
ありのままの音を奏でるピュアサウンド
final
E5000
ステンレス削り出し、鏡面仕上げのハウジングに6.4mm径のドライバーユニットを搭載。金属筐体が不要振動を抑え、色付けの無いピュアで繊細な音を再生します。筐体内部には、中低域の特性をコントロールする音響レジスターと、低域の量感を高めるアコースティックチャンバーを備え、豊かな低音とクリアな音色を両立させています。
【アニソン試聴レビュー】
音がしなやかで身が詰まっており、肉声やアコースティックな楽器との親和性が特に高い。「ラムのラブソング」では艶めかしいヴォーカルが良く伸びる。「Shiny Seven Stars!」ではバックオケが主張しすぎず、控えめにしかしキッチリと細かい部分まで出ている。細かいところを丁寧に押さえていて、その結果主役のヴォーカルがとても自然に出てくる。ただしスマホなどの直挿しだとボリュームが若干取りづらいかも。(天野)
まず見た目にインパクトがある。フッ素ポリマー絶縁&クリアPVCのシースは、とてもお洒落で女性にも似合いそう。ケーブルのタッチノイズが大きめなのが気になった。アコースティックチャンバーをはじめ、内部の音響特性にこだわっているためか、中域の再現力は特筆すべきものがある。「A Page of My Story」の管楽器の実在感や、「Magic Parade」のボーカルも心地よく味わえた。「ぼなぺてぃーと▽S」は、Aメロの躍動感が低域の量感に支えられている。分離感や解像度は、もうひと越えほしいところ。(橋爪)
チューニングフィルターで音質の調整が可能なハイブリッドイヤホン
AKG(アーカーゲー)
N40
バランスド・アーマチュア(BA)型ドライバー1基と、8mm径ダイナミック型ドライバー1基を搭載したハイブリッドタイプのイヤホン。2つのドライバーを組み合わせることで、ハイレゾ音源の超高域も再生できるワイドレンジを実現しています。また、2つのドライバーのチューニングには音質劣化につながる電気的なネットワークを一切使用せず、アコースティックに調整することで自然な音のつながりを実現。3種類のメカニカル・チューニング・フィルターが付属し、自分好みの音質に調整可能です。
【アニソン試聴レビュー】
高音が少々刺さり気味だが、細部がきっちり出てきてベースもズッシリとしている。「ラムのラブソング」ではダブルベースよく弾んでいて、ヴォーカルの艶もなかなか。「Shiny Seven Stars!」では豊かな低音がよく活きていて、男声ヴォーカルはなかなか堂に入っている。ハイレベルなサウンドだが、どちらかというと精細感寄りの印象。もう少し空間表現が出来るともっと嬉しい。(天野)
AKGらしい豊潤な中域が魅力のイヤホンだ。サウンドフィルターはデフォルトで試聴している。「Magic Parade」のストリングスは滑らかで有機的な質感。ボーカルはクリアに浮かび上がり、空気感含めてゾクッとする美音。「A Page of My Story」では音場の広がりや定位の描き分けもしっかりしている。反面、「ぼなぺてぃーと▽S」のようなシンセサウンド中心でテンポ早めの楽曲では、若干のもたつきを感じた。音のエネルギー感はあるので、中域の個性がハマる方はオススメ。(橋爪)
低音をカスタマイズして好みの音を再現
Sennheiser(ゼンハイザー)
IE 80 S
人気モデル「IE 80」をベースに、よりスタイリッシュでコンパクトなデザインを採用。耳へのフィット感も向上させ、音響設計を改善したことでよリクリアで再現性の高いサウンドを実現しています。ハウジングのステンレス部分には低域を調整できるアジャスターを備え、自由に低音の量を変えて楽しむことが可能。好みのフィット感が選べる3種類のイヤーピースが標準付属します。
【アニソン試聴レビュー】
ダイナミックドライバーのサウンドはふんわり柔らかい印象だが、細部もそこそこしっかりと出る。「ラムのラブソング」を聴くとコンガはよく弾み、ヴォーカルは程よくかすれて良い雰囲気を出していて、ゆったりと音楽に浸る事ができる。「Shiny Seven Stars!」で聴く男性ヴォーカルはとても近くに感じるが、音数が多くなると少しゴチャゴチャするのは玉に瑕。バランス駆動でクロストークを排除するともっと良くなりそう。(天野)
高域が若干華やかな音調だが、基本はモニター系のサウンドにまとまっている。「ぼなぺてぃーと▽S」は躍動感やテンポの良さを高いレベルで再現。音が素早く収束してくれるので、立ち下がりがクリアだ。分離の良好なミックスが魅力の「Magic Parade」もプロのチェック用に使えるレベルだと感じた。ストリングスの解像度は高く、滑らかな質感が音楽の楽しさも確かに伝える。「A Page of My Story」の定位の微細な違いも明確に描き分ける。ハウジングに設置されたアジャスターで低音域を調整できるのも魅力。(橋爪)
5ドライバー搭載のハイブリッドイヤホン
AKG(アーカーゲー)
N5005
中高音域用にBA型ドライバー4基、低音域用に9.2mm径ダイナミック型ドライバー1基の合計5基を搭載したハイブリッドタイプのイヤホン。電気的なネットワークを一切使用せず、 アコースティックにチューニングすることで、ハイブリッド方式でありながら自然な音のつながりを実現します。透過性の異なる4種類の「メカニカル・チューニング・フィルター」を付け替えることで、好みの音質に調整可能。2.5mmバランスケーブル、リモコン付き3.5mmケーブル、Bluetoothケーブルと、AKG純正3.5mmアップグレードストレートケーブルの4種類のケーブルが付属します。
【アニソン試聴レビュー】
AKGイヤホンのハイエンドモデル。ダイナミックとBAのハイブリッド方式を採用しつつ、高音と低音が喧嘩することなくハイレベルにまとまっている。見た目に反してサウンドは暑苦しさの無いクール系で、どの曲を聴いてもビートの刻み方がキッチリ・ハッキリ。それでいて「ラムのラブソング」では仄かな艶を感じるし、音の見通しが良いので「スノハレ」と「Shiny Seven Stars!」では各人の声質の違いが分かりやすい。(天野)
中高域がとても元気に鳴っている。ただし刺激成分は一切無く、帯域バランス的にはAKGらしい音を踏まえつつも、解像度はかなりの水準だ。BPM早めの楽曲にユニットは素早く追従し、躍動感をしっかりと再現。「A Page of My Story」の管弦楽はやや明るめの音調だが、箱鳴りや空気感の再現は高レベルで、アニソンならこのくらいがベストなバランスだと感じた。クッキリと浮かび上がったボーカルが特徴的な「Magic Parade」では、うるおいまで感じさせるようなリアリティに唸った。リバーブの収束は自然で、生音の質感表現も十二分な水準だ。(橋爪)
結論:お二人のイチオシイヤホンは?
天野さんのイチオシ:final「E5000」
一口に「アニソン」といっても、ポップスもあればジャズもあるし、サントラならばコンピューターミュージックもオーケストラもある。その点サウンドの基礎がしっかりとしていて変な強調が無く、音の響きが上品という芸達者なE5000ならば、幅広い音楽をより深く楽しむ事ができる。超高額というほどでもない3万円を切るプライスもうれしいポイント。飽きのこないサウンドで、リケーブルにも対応するので、長く付き合いたい1本だ。
橋爪さんのイチオシ:Sennheiser「IE 80 S」
帯域的な癖が少なく、解像度が高いサウンドは、どんな曲を聞いても特別な相性問題を感じさせない。かといって無味乾燥という訳ではなく、リスニングに欠かせない質感表現力も備えており、初めて購入するハイクラスイヤホン として文句なしにオススメできる。